Writone投稿用小説『V・R』

2018年12月27日小説小説, writone

こんばんは、しろもじです。

VoiceBookのWritone用に、短編小説を二本書きました。

だらだらと長く書くのは苦にならないのですが、ある程度の文字数でビシッと書くのは相変わらず苦手です。でも、克服しないといけないなぁとも思うので、しばらくは修行の日々です(笑)。

まずは一本目の小説『V・R』です。

Writoneのアクターさん用のページは以下になります。

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V・R

「じぃじ! そっちじゃないってばっ!」

「お、おぉ」

「あーっ! もうっ!!」

 眼の前に広がっていた映像が消え『GAME OVER』の文字が浮かび上がる。

「じぃじ、下手くそっ!」

「……悪い悪い」

「もう、やーめたっ。ゲーム終了!」

 その言葉とともに映像が消え、真っ白な部屋の風景が目に入ってきた。

 息を整えようとするが、まるで酸素が薄い地域にやってきたかのように、苦しさは消えていかない。

「こらっ、唯人(ゆいと)! おじいちゃんにそんなこと言っちゃダメでしょ!」

「だって、じぃじ、ゲーム下手くそなんだもん!」

 母親のたしなめる声にも耳を貸そうとしない孫の唯人に悪気はないことは知っている。子供というのは、いつの時代でもこういうものなのだ。

「いいんだ、茜(あかね)さん。ごめんなぁ、唯人。おじいちゃん、足がもつれちゃって」

 私が小さかった頃にも同じような光景はあった。ただその頃は今とは違って、ゲームと言えば四角い画面に向かい、手に持ったコントローラで操作するものだった。

 二十年ほど前からVRを応用したゲームが本格的に普及し始めた。当初はゴーグルをかけて操作するものだったが、やがて部屋全体に映像を映し出し、プレーヤの動きをセンサで読み取って行われるゲームが出てきた。

 テレビの前に陣取り、何時間も座りっぱなしでゲームに夢中になっていた私たちの頃よりかは、遥かにマシになってきているとも言える。ただ、体を使ってゲームするには、年を取りすぎたとも言えた。

 ようやく息が整ってきたころ、唯人が「後で、もう一回やってくれる?」と、少し気まずそうに話しかけてきた。どうやら母親にこってり叱られたらしい。「あぁ、いいとも」と答えると、唯人は嬉しそうに笑った。

 リビングに行くと、茜さんが「ごめんなさいね、おじいちゃん。唯人が無理言っちゃって」とお茶を差し出してくれた。

「いやいや、いつものことだしな。それに、確かに私も体がなまっているようだ」

「65歳にもなって、6歳の子と張り合っちゃダメですよ」

「あはは、まぁそりゃそうかもな」

「それにああ言ってましたけど、もうちょっとしたら雅弘(まさひろ)さんも帰ってきますから」

 息子の雅弘の妻、茜さんはそう言って笑う。義理の娘は、本当によくできた子だと思う。家に連れてきたときは、少し見た目が派手だったので「どうしたものか」と危惧したものだが、結婚して子供が生まれてからは、家のこと、子供のこと、それにパートタイムの仕事を一生懸命にこなしてくれている。

 仕事をリタイアして、こうして孫と安心して遊んでいられるのも、彼女のお陰と言っても過言ではないだろう。彼女が「雅弘さんも帰ってきますから」と言ったのも、私と孫が遊んでいるのをどうこう思ってのことではなく、本当に私の身体を心配してくれているということがその口調から理解できる。

 本当に素晴らしい義理の娘なのだ。

「いやいや、孫と遊ぶのもおじいちゃんの大切な仕事だよ」

 そう言うと、少し困った表情をしながらも、笑って同意してくれた。

 雅弘が生まれて、子供を愛おしく思う気持ちがどんなものなのか理解できるようになった。それと同じように、唯人が生まれて孫というものが年老いた老人にとって、どれほど大切なものかがようやく分かった。

 彼は自分が生きてきた証のような気がしていた。私たちの世代は、個人を大切にする世代だと言われている。昔のように、お家が第一というわけではなく、自分がどう生きるか、生きたかということを重視する。それでも孫を見ていると、自分の系統が確実に未来に繋がっているかのように思われた。それはまるで自分が生まれ変わったかのような感覚にも似ていた。

 ずっと前からじいちゃんばあちゃんは孫の言いなりだと言われているが、それは現代でも変わらない事実なのだろう。唯人は私の宝物なのだ……。

 そんなことを考えていると、ついウトウトとしてしまったらしい。リビングは薄暗くなり、窓から赤い夕日がブラインド越しに差し込んできていた。辺りを見回す。

 先程まで夕飯の支度をしていた茜さんはもういない。廊下に出て階段を登る。一番手前のドアをノックするが返事はない。そっとノブを回し部屋の中に入る。

 大きなダブルベッドに、部屋の中央に小さなテーブル。窓際にもテーブルがあり、そこには鏡や化粧品などの入った箱が置かれていた。少し開いた窓から優しい風が入り、レースのカーテンを揺らしている。

 部屋を出て隣の部屋に向かう。今度はノックもなしにドアを開けた。キチンと整えられたベッドの脇に、何年か前に買ってやった学習机がある。その上には教科書やノートが丁寧に並べられていた。

 一冊のノートを手に取ってみた。『夏休みの自由研究』と表紙に書かれている。唯人は字が上手いなぁ、と感心する。同時に涙がこぼれ落ちてきた。ノートを机に戻し必死で涙を拭うが、一向に止まらない。

 まだ、まだだ。もう少しだけ……。

 突然、電子音がピンと鳴り響いた。顔をあげると、涙で滲んだ景色に文字が浮かび上がって見えた。

『情緒の不安定を観測しました。プログラムを強制終了します』

 その言葉と同時に風景が消えていく。残されたのは真っ白な世界。私は絞り出すような声で「コンピュータ、もう一度だ。もう一度再生してくれ」と懇願した。しかし再び電子音と共に『申し訳ございません。このプログラムの再起動には72時間以上の間隔が必要です』と告げられる。

「今度出るVRシステムは凄いんだぜ。ゲームだけじゃない、本当にそこにいるかのように映像を投影できるようになってるんだ」雅弘はそう言っていた。

 白い部屋のドアを開けて廊下に出る。

「家にいても海外旅行だってできるし、大昔のヨーロッパに行くことだってできるんだって! ファンタジーの世界だってあるんだ。凄いよね、じぃじ!」唯人が嬉しそうにそう言っている。

 廊下を歩いて、突き当りにあるドアノブに手をかける。

「そう言えば、この前テレビで医療用にも応用してるって言ってたわよね。なんでも精神的にまいっちゃった人の治療にも使えるとかなんとか」茜さんが思い出しながらそう言った。

 部屋に入ると、白衣を着た青年が椅子に腰掛けていた。彼はやや困った顔で私の方に振り向くと口を開いた。

「西沢さん、やはりこのプログラムはあなたの治療に最適ではないと思われます」

 その言葉に唇をグッと噛み締めた。

「息子さんにその奥さん、それにお孫さんを事故で一度に亡くされたお気持ちはお察しします。それによって、あなたが心に重大な問題を抱えてしまっていることも。ただ、こういう場合は通常――」

「いいんです!」

 医者の言葉を追い返すように答える。

 そんなことは分かっている。昔の記憶を今更体験し直したところで、私は救われやしない。全く意味がない。過去を振り返ってばかりいる。そんなことは分かっている。

 しかし、あれほど鮮明な映像を見せられて、どうして抗うことができるだろうか? 息子の、義理の娘の、そして孫の……私が見た姿は、まるであのときのままの光景のようだ。誰がなんと言おうとも、それを私から奪う権利などないはずだ。

「来週、また来ます」

 そう言って部屋を後にする。三日間我慢すれば、また彼らに会うことができる。一緒に笑ったり、遊んだり、軽口を叩きあったりできるのだ。それで十分だと思う。

 もはや、それしか私には残されていないのだから。

あとがき

昨年辺りにPlaystation VRなどで一気にVRブームが来る……かと思われましたが、今現在ではやや失速気味になっています。原因は色々あるとは思いますが、やはりゴーグルというのが色々な意味で障害になっているんじゃないのかな?と思ったりしています。

ゴーグルがなくなり、部屋の中で仮想世界を楽しめるようになる……それは本当に面白そうで、ぜひ早い内に実現して欲しいものだと思っています。

そういう楽しさを舞台にした作品というものは今でもいくつかありますし、私自身も長編でコツコツ書いていたりします(当分完成しそうにないのですが)。

でも、ふと「もしかしたら面白いことばかりじゃないのかもしれない」と思いました。VRさえなければ良かったのに、というシチュエーションはどういうものだろう?

そういうことを考えているうちに、本作に行き着きました。

荒削りな面も多いかと思いますし、少し暗いお話なのですが、よかったらWritoneにて音声化して下さると嬉しいです。

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今日も最後までお読み頂きありがとうございました!

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