ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者【ブラッド・ストーン|日経BP社】
こんばんは、しろもじです。
読んだ書籍をネタバレしない程度にレビューする「読んでレビュー」。
久々のレビューは、小説を離れいわゆるビジネス本……になるのかな? ご存知Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏とAmazonの本になります。
と言っても、自叙伝ではありません。
インタビューを中心に、Amazon内部を鮮明に描いている書籍になります。
Amazon関連本の中でも特異な本書
ジェフ・ベゾスについて書かれた本って、本当に少ないんですよね。Amazon関連の本は、それこそ山のようにあるのですけど、その大体は「外から見たAmazon」を描いており、中には長年Amazonを利用していれば誰でも分かるようなことを「実はこうなのだ!」みたいに書かれているものさえあったりします。
その中で、本書の著者ブラッド・ストーン氏はジェフ・ベゾスを始めとするAmazon幹部にかなり丁寧なインタビューを行っており「これ書いてもいいの?」というような際どい内容まで記載されていたりします。
インタビューをして書かれた書籍というと「太鼓持ち」になりがちですが、中にはベゾスを批判するような文章もあったりして、かなり客観的な視点で書かれているのではないかと思います。
発行年が2014年ということもあり、若干古い書籍なのですが、それ以降も本書を超えるほどの情報量を持った書籍はありません。
そういうわけで、今改めて取り上げることにしました。
突破力
私はこういう「成功者の軌跡」について書かれた本が結構好きで、それは「その人のようになりたい」とか「私も成功を収めたい」という欲求からではなく「どうやったら、そんな成功を収められたのだろう?」という好奇心から読みたくなるんですよね。
だから、フォロワー的な人の本よりも、ゲーム・チェンジ的な役割を担った人の本が好きです。
後追いで成功を収めた方もたくさんいますが、時代の先頭を切り裂きながら進んで、世の中を変えてしまうようなことをやった方は、その過程において相当な荒波に晒されており、それを解決(もしくは突破)しながら進んできた物語は、創作の参考になるからなんですね。
一番最初に感銘を受けたのが、マクドナルドの創業者「レイ・A・クロック」の『成功はゴミ箱の中に 』です(実際にはマクドナルド姉弟が創業していますが、現在のマクドナルドを築き上げたのはクロックです)。
昨年、映画にもなりましたね。
クロック、ベゾス、Appleのスティーブ・ジョブズ、日本で言えば本田宗一郎。
これらの創業者に共通しているのが「突破力」です。
いずれも、一見乗り越えがたいほどの壁にぶつかり、色々な反対意見にも流されず、自らの信じるところを突き進んで突破しています。
クロックはマクドナルド創業時(マクドナルド姉弟から権利を買って)膨大な赤字を計上しつつ、自分の仕事であるマルチミキサーで得た収入のほとんどをつぎ込みながらも、事業を拡大していきました。
ジョブズは皆さんもご存知だと思いますが、一度Appleを追放されながらも復帰し、その後も社内や社外の様々な「意見」に流されることなく、潰れかけたAppleを世界一の時価総額企業へと押し上げました。
本田宗一郎も浜松の潰れそうな小さなバイクメーカーだったときに、マン島TTレースに出場をし惨敗するも3年目に1位から5位を独占。その後、4輪に進出するやF1に参戦するなど、世間から見れば無謀とも言える挑戦を繰り返しました。
勘違いしてはいけないのですが、決して「人の話を聞くな」とか「無茶をした方が良い」というわけではありません。
顧客第一主義
話をベゾスに、本書に戻しましょう。
本書には創業当時から、2010年付近までのことが綴られています。
一応時系列的に並べられていますが、ある程度話題を絞り込み重要な事柄を中心に構成されています。
ドア材を机に作り変えて発送用の作業台にしたという話や、創業期のホリデーシーズンにはベゾス自ら発送作業に従事したというような話。
現在も問題になっている課税逃れは、アメリカ国内においても行われていた話。
ネット本屋から脱皮し、あらゆるものを扱い始めたときの話。
ウォルマートやイーベイとの攻防。
その全てにベゾスがどのように行動し、指示していたのかが記されています。
一読者、一ユーザーとして、大いに共感できるものもありますが、多くは「そこまでするか」と呆れ返りながら「Amazonの社員でなくてよかった」とホッとするような話が多かったりします(笑)。
ホリデーシーズンのおもちゃの在庫を巡って幹部と衝突し
「黙れ! 1億2,000万ドルだ! たっぷり仕入れろ。後始末が必要になったら、オレが埋め立て地まで捨てにいってやるから」
『ジェフ・ベゾス 果てしなき野望』より引用
と無理やり仕入れさせ、結果的に5000万ドルもの在庫を抱えてしまった話など、まともな経営者では考えられない行動です。
短期的に見れば、書き入れ時のホリデーシーズンに大きな赤字を出してしまうのですが、長期的に見れば「Amazonには、なんでも揃っている」という印象をユーザーに与えることができるわけで、まさにベゾスの言うところの「顧客第一主義」の象徴のような行動です。
先に述べたように、自身の信じるところを貫き通す。
お仕事をされている方なら分かると思いますが、書くと簡単なことでも、なかなかできることではありません。
強く反対されれば妥協点を探ってしまいがちです。
「それなら7000万ドルくらいにしとこうか」と言ってしまいそうです。
酷いところならば「じゃ、お前やってみろ」と投げて、あとになって「ほら見たことか」となる会社もあるかもしれません。
「創業者だから」というのもあるかもしれませんけど、それでも「確固たる信念を持って、それをいかなるときも貫き通す」というのは、並大抵の精神では難しいでしょう。
それを乗り越えてきたからこそ、今日のAmazonがあり、他の小売業が苦戦している原因かもしれませんね。
キンドル誕生にみる、ゲームチェンジャー
あんまり本のレビューになっていないかも(笑)。
本書の中で、一番印象に残ったくだりをご紹介しましょう。
「電子書籍と言えばキンドル」というくらい、電子書籍市場において圧倒的なシェアを誇っているのが、Amazonの電子書籍リーダー「Kindle(キンドル)」です。
その登場時の話。
まず出版社に書籍のデジタル化を勧めていき、それでも動かない出版社に対し、Amazon内での検索や顧客への推奨アルゴリズムの優先順位を下げると脅しをかけていきます。
出版社にとっては「なんでリスクを取ってまでデジタル化しないといけないのか。紙でいいじゃないか」とたかをくくっていたわけですが、そこに売上高の大きいAmazonが「それなら、おたくの本は売らない」と脅したわけです。
ベゾスの支持する「10万冊」には届かないものの、なんとか9万冊の電子書籍を揃え、ようやくキンドルを発表します。
その前に、ベゾスは人気の書籍や新刊書のデジタル版を、一律9ドル99セントで発売すると決めているのですが、出版社にはそれを伝えていません。
2007年に行われたキンドルの発表会。出版社幹部も集まったその壇上で、初めて「9ドル99セントで提供する」と告げ、彼らのど肝を抜きます。
完全にベゾスにしてやられてしまったわけですが、時すでに遅し。
日本だと「出版社も取次も印刷会社も書店も、全てが幸せになる仕組みを」となるわけで、現在もその方向は続いています。
それが決して間違っている、というわけではありません。
私自身も紙の書籍には愛着がありますし、書店がなくなってしまうと困ってしまう人の一人です。
ただ、ベゾスはそのような人たちの方を向いておらず、常に顧客の方だけを見ていた、ということですね。
まとめ
大きく仕組みが変わるとき、既存のルールや権益を守ろうとする力が働きます。
町の小さな小売店から、郊外型のショッピングスーパー、そしてモールへ。
更にネットを使ったAmazonのような仕組みへと変わっていくのは、水が高きから低きへ流れるが如しです。
「紙の本には、デジタルにはない温かみがある」と主張するのも間違ってはいません。
「町の書店なら、ゆっくりと本を選ぶことができる」とアピールするのも必要でしょう。
しかし、商売(営業)をしていると分かるのですが、時代が変わっていくのに抗うことは、とても難しいことです。
Amazonに対抗するのに、同じ土俵で戦っていては、絶対に勝つことはできません。
対立軸を変える必要があるわけですが、そこを間違えてしまうと「Amazonにはない、人の温かみ」みたいな、なんだかよく分からないフワッとしたやり方しか構築できず、いずれ飲み込まれることになるのでしょう。
書籍にしても同じことが言えるだと思います。
いつまでも「出版社が紙で刷って、書店に並べて、その何割かが返本される頃には、次の本を出版する」というビジネスモデルが続くわけはありません(かと言って、私たちが生きている間に、絶滅するとも思いませんが)。
著者、出版社なども、変わっていかないといけない時代になってきていますし、そういう意味では「面白い時代に生きてて良かったなぁ」という思いがしたりもします。
Amazonがなぜ成功したのか? という疑問に答えるというよりは、そういうことを考えさせられる一冊でした。
ビジネス本ですが、それほど難解な文章でもありませんので、興味がある方はぜひ読んでみて下さいね。
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