Writone投稿用小説『おとなの階段』

小説小説, writone

本作はWritone用に書き下ろした短編小説になります。

◯◯年前を必死で思い出しながら書きました(笑)。

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おとなの階段

「ねぇ、ゆうくん。おとなになるって、どういうことかな?」

 幼馴染の水咲(みさき)ちゃんが、ベッドに寝転んで本を読みながらそんなことを聞いてきた。

 ちょっと前までは、ぼくと一緒にマンガを読んで笑ってたのに、最近水咲ちゃんが読む本は難しそうなものばかりだ。表紙には難しそうな漢字が並んでるし、開いてみれば文字がぎっしり書き込まれてる。絵だってないんだ。

 ぼくはよく分からないので、適当に「さぁ? コーヒーを飲めるようになること、かな?」と答える。だいたい、おとなになるって言ったって、ぼくたちはまだ小学五年生だ。おとなになるのは当分先のことだし、今はそれよりも目の前のゲームのことの方が大切だと思う。

「もー、ゆうくんってば!」

 いつの間にか水咲ちゃんが、ぼくの隣に座っていた。でも、画面から目が離せない。「ちょっと待って」と断って、必死でボタンを押した。水咲ちゃんは無言で、そっと手を伸ばすと……ゲームのスイッチに手をかけた。

「あっ」

「ちゃんと話、聞いてよ」

「何も切らなくても」

「ゲームなんていつでもできるでしょ?」

 ぼくはコントローラを置いて立ち上がる。いつでもできるというのなら、その話だっていつでもできると思うんだけれど。でも、それは言わない。言ったらきっと水咲ちゃんは怒ってしまうからだ。

 それでも少しだけ、ムッとはしてる。水咲ちゃんも立ち上がってぼくの正面に立った。「ムッ」が「ウッ」に変わる。気にしないようにしていたんだけど、最近水咲ちゃんはちょっとだけ……ぼくより背が高くなったようだ。

 まっすぐ水咲ちゃんを見ると、ほんの少しだけ視線がずれているように思える。水咲ちゃんもそのことは分かっていて、ちょっとだけ得意げな顔をしているのが気に入らない。

「ねっ、ゆうくんはどう思うの?」

 水咲ちゃんは一度言い出したら、絶対に聞かない。同級生の女の子たちの会話を聞いていると、話があっちこっちに飛んでて、気がついたら全然別の話になってる、なんてことがあるんだけど、水咲ちゃんはちょっと変わっているのか、そういうことがあんまりない。

 でも、そこはぼくも好きなところだ。

 「うーん?」そう言われても、非常に困る。水咲ちゃんは目をキラキラさせながら、ぼくの答えを待っている。こういうとき、さっきみたいに適当に答えるのを水咲ちゃんは許してくれない。分からないときはこう言うに限る。

「分からないよ。水咲ちゃんはどう思うの?」

 それを聞いた水咲ちゃんは、もっと目を輝かせた。

「私ね、最近――」

 ちょうどそのとき、玄関のドアが開く音がして「ただいまー」という声が聞こえてきた。

「あ、お母さんが帰ってきたみたい。おやつ買ってきてくれたか聞いてくる」

 そう言って部屋を出る。ドアを閉めるとき、水咲ちゃんがぷうっと頬を膨らませて不満そうな顔をしていたけど、きっと何か食べれば機嫌も良くなるに違いない。

「おかえりー。ねぇ、おやつ買ってきてくれた?」

 玄関に行くと、お母さんが両手一杯の荷物を抱えながら「ゆうくん、ただいま。年末だから買いすぎちゃった。おやつもあるよ。どこだったっけ……?」とビニール袋の中をキョロキョロと見ていた。

 今日は特に寒い一日で、玄関も凍えるように寒い。お母さんは白い息を吐きながら、重い荷物を抱えている。額にはうっすらと汗が滲んでいた。ぼくは一歩踏み出して、お母さんが持っているビニール袋に手をかける。

「かして。ぼくが持つから」

「えぇ!? どうしたの? ゆうくんがそんなこと言うなんて」

 確かにぼくはいわゆる「お手伝い」というヤツが嫌いだ。お父さんに「庭の手入れを手伝ってくれ」と言われたときや、お母さんに「お風呂の準備してきてくれない?」と頼まれたときには、いつもしかめっ面をしてしまう。

 でも、両手一杯の荷物を抱えながら、ぼくのためにおやつを探してくれているお母さんを見ていると、なんだか「助けてあげなくちゃ」って気持ちになってきた。ビニール袋をひとつ受け取った。

 うっ……思っていた以上に重い。でも、持てないほどじゃない。

「もうひとつ、かして」

「無理しないでいいのよ?」

「大丈夫。よゆー、よゆー」

 余裕さをアピールするために、引きつりそうな顔を必死で我慢した。「本当に大丈夫?」と苦笑いしながら、お母さんは手に持っていた中から一番小さい袋を手渡してくれた。

「台所?」

「うん。ねぇ、本当に大丈夫、ゆうくん?」

「へーき、へーき」

 本当は全然平気じゃないけど。できるだけ背筋を伸ばして「全然重くないよ」という感じで荷物を運んだ。「あ、そこでいいから。冷蔵庫の前ね」の言葉にホッとして袋をおろす。

 |掌《てのひら》がジンジンする。腕もダラーンと垂れ下がったまま動かない。お父さんだったらこのくらいの荷物、軽々と運んじゃうのにな……。

 少し情けないような恥ずかしいような気持ちになって、明日から筋トレしようと心に決めた。まずは腕立て伏せ30回……いや、20回から始めようかな。

「ゆうくん、水咲ちゃん来てるの?」

「うん。ぼくの部屋にいるよ」

「じゃぁ、後でおやつ持っていってあげるから、部屋に戻ってなさい」

 自分で運ぼうかと思ってたけど、お母さんは「溶けちゃう、溶けちゃう」と必死でコロッケを冷凍庫に押し込んでいる。ここでじっと待っているのもな、とクルリと振り返り部屋へ向かう。

 リビングを抜けて玄関に戻ると、水咲ちゃんが階段に腰掛けてニヤニヤと笑っていた。「なに?」と聞くと「ふーん?」と面白そうなものを見たような顔をした。

「ゆうくん、おとなじゃん」

 大人……? ぼくが? 意味が分からないので、どういうことか聞いてみた。

「困っている人を助けてあげられるっていうのは、おとなだと思うよ」

 どうやらぼくがお母さんの荷物を持ってあげたことを言っているらしい。

「そんなの当たり前だと思うけど」

「そう、それ! 当たり前って言えるのはおとなじゃない?」

「そうかな?」

「そうだよ。そうかぁ、ゆうくんもおとなの階段登っちゃったかぁ」

 そんなことを言いながら水咲ちゃんは本当に階段を登っていく。上手いこと言ったでしょ? みたいな顔で振り返るの止めてくれないかな。

「そう言えばさ。さっき何か言いかけてなかった?」

 部屋に戻ってベッドに腰掛けたとき、何か水咲ちゃんが言いかけていたことを思い出す。

「あぁ、あれね」

 水咲ちゃんは少し考え込んでいたけど、すぐに「あっ!」と言うと「同じことだよ、ゆうくん」とぼくの肩をたたいた。

「同じこと?」

「そう。私ね、学校の『お手伝いクラブ』に入ったんだよ!」

 そう言えばそんなものがあったっけな……。一週間ほど前に先生が『参加したい人は申し出て下さい』って言ってた。確か、学校の周りの掃除をしたりするやつだったと思うんだけど……。

「ねぇ、ゆうくんも一緒にやろうよ!」

 水咲ちゃんは目を輝かせながら、ぼくの肩をギュッと握る。

 でも「困っている人を助ける」のが大人だって言うのなら、クラブに入って掃除するのも同じことなのかな? うーん、ギリギリ似てるような気はするけど。

 そう言うと水咲ちゃんは「私が困ってるの」と答える。

「入ったのはいいけど、知ってる人いなくって」

 あぁ、そういうこと。

「水咲ちゃんを助けるって意味?」

「さっすが、ゆうくん。頭いいね!」

 なんだか一方的に乗せられている気もしたんだけど、思っていた以上に悪くないとも思う。

 水咲ちゃんの笑顔を見ていると、そんな気がしてきた。

あとがき

随分前に前半部分を書いて放置していた小説です。

もしかしたら、そのせいでちょっと前半と後半で文体が違うかもしれません。

途中まで書いてみたものの、最後をどう〆るのかで随分困りました。

やはり短い文章で書ききるのは難しいですね。

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今日も最後までお読み頂きありがとうございました!

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