アイネクライネナハトムジーク【伊坂幸太郎|幻冬舎文庫】
こんばんは、しろもじです。
読んだ小説のレビューを行う「読んでレビュー」。
今回は伊坂幸太郎さんの「アイネクライネナハトムジーク」をご紹介します。
アイネクライネナハトムジークとは、ドイツ語で「小さな夜の曲」という意味で「小夜曲」と言っていた時期もあったのだということは、小説本文でも触れられています。
そのタイトルに相応しく、本書は6つの小さな話(アイネクライネ、ライトヘビー、ドクメンタ、ルックスライク、メイクアップ、ナハトムジーク)から成り立っていて、それぞれの物語が絶妙にリンクした小編の集まりとなっています。
どの話も、日常のほんのちょっとした出来事から始まって、それが徐々に他の話に繋がっていくという不思議な構成になっていて、その匙加減が「しつこすぎず、かと言ってさっぱりしすぎず」の絶妙のバランス感覚の上で成立しているのが、本当に凄いと思います。
そして、それは小説内だけに留まっていません。
元々、シンガーソングライターの斎藤和義さんに「歌詞を書いて欲しい」と依頼されたものの「歌詞は書けないが小説なら」と引き受けたのがきっかけだそうです(本書あとがきより)。
それで作られたのが1話目の「アイネクライネ」で、それを元に実際に斉藤和義さんは曲を創っています。
「ベリーベリーストロング」も、本書に登場していますので、探してみて下さいね。
あとがきによると、その後同曲がシングルカットされた時に、同梱するために書き下ろしたのが「ライトヘビー」。更にその中に、逆に斉藤和義さんの曲からの引用されている部分もあったりします。
そういうふうに、色々なものが複雑に絡み合ってできているのが、この「アイネクライネナハトムジーク」であって、一度読んだ後に、何度も何度も読み返す羽目になる一冊になっています(笑)。
多少はストーリーにも触れたいところですが、なかなか難しいんですよね。
ぜひ、実際に読んでみて「あぁ、そういうことなのか」という驚きを味わってもらいたいと思います。
ネタバレしない程度に書くと、6話の中で私が好きなのが「ライトヘビー」と「ルックスライク」です。
どの話も「器用に生きられない人間の様」を見事に書いていて「そうだよね。実際、人はそんなにスマートには生きられないんだよね」と教えてもらった感じがします。
最近の小説では(もちろん、自分が書いたものも含めて)、どうしてもキャラクターの魅力を引き出すために、尖っていたり偏っていたりすることがあります。
あまり酷い部分を書かずに、記号としてのキャラクターを書いてしまうこともあります。
本作に出てくる主人公たちや、脇を固めるサブキャラクターたちは、いずれも「生きている人間」として書かれており、誰もが「近くにいそうな人間」なのに「それぞれが独立した人間」であることがはっきりと理解できます。
そういう部分をしっかり書きながら、ストーリーとしてしっかり絡み合っている。
まさに圧巻と言える1冊ではないかと、私は思います。
同時に「こういうの書きたいなぁ」と思ってしまったり、実際に書こうとしてがっかりしてしまったりします(笑)。
まだ、読んだことがない方、伊坂幸太郎さんの作品を知らない方、小説を書いている方、色々な方にお勧めの一冊です。ぜひ、読んでみて下さい。
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