砂漠【伊坂幸太郎|実業之日本社文庫】

2018年1月11日読んでレビュー

伊坂幸太郎氏の「砂漠」は2005年に実業之日本社からハードカバー版が出版され、2010年には新潮文庫より文庫本が出ています。

今回取り上げるのは、2017年に実業之日本社の創立120周年記念として、同社から文庫本として出版されたものになります。

 

とは言え、特に加筆などの注釈もないので、同じものだと思います。

この文庫本用の著者による、あとがきがあるくらい?

 

実は私は伊坂幸太郎氏の作品は、これが読むのが始めてだったりします。

この「砂漠」も確かずっと前に手に取ったことはあったと思うんですが、結構分厚い本なのでその時は「ま、今度にするか」とスルーした覚えがあります。

そう考えると、再び文庫本として再出版されたことで、手にとる機会が生まれたわけですからありがたい話ですよね。

 

さて、本題に入りましょう。

 

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あらすじ

仙台市の大学に進学した春、なにごとにもさめた青年の北村は四人の学生と知り合った。少し軽薄な鳥井、不思議な力が使える南、とびきり美人の東堂、極端に熱くまっすぐな西嶋。麻雀に勤しみ合コンに励み、犯罪者だって追いかける。一瞬で過ぎる日常は、光と痛みと、小さな奇跡でできていた――。

「本書裏表紙解説より」

 

5人の大学生が、春、夏、秋、冬を通じて、大学生らしい青春に興じたり、事件に巻き込まれたりしながら成長していくのが描かれています。

 

本書の魅力

ストーリーで起こる事件などは「実際にはそうそう起こらないけど、絶対にないとは言い切れない」というもので、違和感なく受け入れられるのではないでしょうか?

まぁ普通に大学生活を送っていれば、こんな経験はなかなかできませんが、それがないと小説としては成り立ちませんからね。

 

それよりも本書は「キャラクターありき」の作品だと思います。

上の解説にも書かれていますが、個性豊かなキャラクターが登場しますので、そのやりとりを見ているだけでも楽しくなってきます。

強いて言えば、西嶋のキャラクターが強すぎて、他のキャラクター、特に女性陣がやや弱いかなぁと思っちゃうくらいでしょうかね。それでも普通に個性的なんですけどね。

 

春・夏・秋・冬の4章立てになっているのですが、それぞれに起こる出来事が、他の出来事との関連もあったりして、所々に伏線が散りばめられています。

とは言え、びっくりするような伏線ではなく「あ、そう言えば」と後で気がつくような物が多いので、その点では好感が持てる構成になっているかと思います。

小説の中には「伏線が分からないと成立しない物語」というのもありますが、本書ではそこまで伏線が重要ではなく、あくまでも5人の大学生が主役になっています。

その中でも一番大きな伏線は、最後まで読むと誰でも気がつくようなものですが、それに気がついて改めて見直してみると「あぁ、なるほど」と、読書中に感じた「少しの違和感」が解消されるものになっています。

 

読み終えた時は「続きが見てみたいな」と思わせてくれますが、かと言ってその後の彼らの活躍を知りたいか? と言われるとそうでもなく、どちらかと言うと「大学生活の中で語られなかった話を知りたい」という方かもしれません。

それは本書の題名になっている「砂漠」にも関連していることかもしれません。

 

こんな方におすすめ

ほぼ万人におすすめできる本です。

例えばライトノベルなどを主に読んでいる方が「一般文芸を読んでみたいな」と思った場合、本書は最適なもののひとつとなるでしょうね。

 

また、ある程度歳を重ねた方で、著者と同年代の方なら「昔を懐かしむ」という意味でも「今の現状を見つめ直す」という意味でも、良い作品となっています。

 

500ページと少々長い作品になっていますが、難しい言い回しや表現などは特になく、スッと読める文体になっていますので、あっという間に読み終えることができます。