有頂天家族【森見登美彦|幻冬舎文庫】
こんばんは、しろもじです。
読んだ小説を勝手にレビューする「読んでレビュー」。
今回も、今更ながら……という本になります。
森見登美彦著『有頂天家族』です。
舞台は……やはり京都!
森見さんと言えば、以前『夜は短し歩けよ乙女』のレビューをしましたね。
実は、今ちょうど、ずっと積ん読だった『四畳半神話大系』を読んでいるのですが、これも『有頂天家族』も『夜は短し歩けよ乙女』も、全て舞台は京都です。
それ自体、文句を言うわけではありません。
ただ、個人的には京都を舞台にした小説って結構多いですが、凄く地名がたくさん出てくるものが多くないですか?(『夜は短し歩けよ乙女』のレビューにも同じことを書いていました)
しかも、説明無しでサラッと書かれているものが多い気がします。
私は十年ほど京都に住んでいましたので、だいたい読んでても分かるのですが、時々「京都に詳しくない人に分かるのだろうか?」とハラハラしてしまうことがあります(笑)。
まぁ、京都は日本でも有数の観光地でもありますし、よって有名な地名も多いですから、要らぬ心配なのかもしれません。
話が逸れました。
舞台は京都、ということで、本作はやや怪しげな雰囲気を持った作品になっています。
登場人物からして変わっています。
主人公はタヌキ
読み始めて、冒頭からしばらく「一体、私は何の小説を読んでいるんだろう?」という疑問を感じてしまいました。
それもそのはず。
主人公はタヌキだからです。
タヌキに、天狗、そして人間が登場します。
『夜は短し歩けよ乙女』は、かろうじて人間が主人公でしたが、今作はちょっと毛色が違いますね。
タヌキだけに。
しょーもないですね。すみませんでした。
そのタヌキなのですが、少し読み進めていくと「◯にして◯われてしまいそうになる」という、すごい展開になります。
一応、ネタバレ防止のために伏せ字にしています。
その辺りで、また「一体、これは何の小説なんだろうか?」という疑問を持ってしまいます。
心が軽くなる小説
そんな疑念も、読み進めていくうちに「どうでも良くなって」いきます。
「阿呆の血のしからしむるところ」
このフレーズは、本作に何度も登場してくるのですが、確かにタヌキも天狗も人間も阿呆ばかり登場します。
阿呆は「バカ」とはちょっとニュアンスが違いますね。
関東と関西で違うのかもしれませんが、関西の人に「バカ」と言うとムッとされますが、阿呆はそうでもありません。
決して褒め言葉ではないと思うのですが、どこか愛着を持って言う言葉なんですよね。
その阿呆なタヌキや天狗、人間などが繰り広げる騒動は、バカバカしくもあり、なんともユーモラスで、読んでいる内に「小さいことなどどうでも良くなってくる」という感覚を覚えます。
心がスッと軽くなるというか「そんなもんでいいんじゃない?」という気持ちになってくるんですよね。
言い回しは難しいが
本作は、主人公であるタヌキの「矢三郎」視点で描かれていますが、地の文も結構あります。
言い回しは森見作品独特の、難しいと言えば難しいものですが、普通に本に慣れ親しんでいる方ならそう苦労はしないと思います。
むしろ、そこまで難しい言い回しをしながらも、相変わらずスラスラっと読ませる文体に、驚いてしまいます。
先程言った『四畳半神話大系』の方が、もう少し難しいというか、固い気がします。
『有頂天家族』『夜は短し歩けよ乙女』は、どちらも似たような文体ですね。
意外な接点も
『有頂天家族』と『夜は短し歩けよ乙女』だけでも、結構接点があったりします。
詳しくはネタバレになるので、言及しませんが、主となるストーリーには流石に絡まないものの、サラッと共通した項目が出てきたりしています。
私は『夜は短し』→『有頂天』の順で読んだのですが、どちらから読んでも違和感はないと思います。
まとめ
アニメ化もされているということで、Dアニメにもあったのですが、本作を読み終えるまでは封印しておりました。
『有頂天家族2』も出ていますしね(最近本屋で買おうかと思ったんですが、違う本を買ってしまったので、今後のお楽しみにとっておきます)。
主人公がタヌキということで、一体どんな作品なのか? と思われるかもしれませんが、ある意味人間より人間らしく描かれているので、その辺りで詰まることはないはずです。
むしろ、人間すぎてちょっと困るところもあったりするのですが……。
結構分厚い本なので、手に取ると怯むかもしれませんけど、あっという間に読めるので、そこまで時間はかかりません。
むしろ、スラスラ読めすぎて、寝る前に読むと寝られなくなるという(笑)。
結構前に出版された本なので、既読の方も多いと思いますが、まだ読んだことがないという方に絶対お勧めの一冊です。
ただ「自分で小説を書く人が、参考になるのか?」と言われると、少し難しいかもしれません。
独特すぎて(笑)。
しかし、色々な作風に触れるというのは、大切なことですからね。
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