夜は短し歩けよ乙女【角川文庫|森見登美彦】

2017年11月6日読んでレビュー角川文庫, 森見登美彦

今回は2007年刊行、アニメーション作品、映画化もされた「夜は短し歩けよ乙女」をご紹介したいと思います。

 

「そろそろ最新刊を」と思っているんですけど、ここ十年ほどあまり小説を読まない(読めない)生活を送ってきていたので、その反動で、面白そうなのを探すとちょっと前の小説ばかりになってしまいます。

 

この本はですね、ずっと前から気になっていたんです。数年前に、駅の本屋さんで東野圭吾さんの「マスカレードホテル」と「夜は短し歩けよ乙女」を見比べて、結局「マスカレード」を買っちゃったんですよね。あの時買っときゃ良かったかな、両方とも。

 

この本、ネットで書評などをみると、概ね好評なのですが、一部「意味が分からない」とか「言葉使いが苦手」といったものも見受けられます。

 

意味が分からないというのはどうかと思いますが、言葉使いは確かに独特のものがあり、好き嫌いが分かれるのも仕方ないのかもしれません。

 

序盤の一節だけを引用しますと

 

 これは私のお話ではなく、彼女のお話である。

 役者に満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡く立ち回るが、まったく意図せざるうちに彼女はその夜の主役であった。そのことに当の本人は気づかなかった。今もまだ気づいていまい。

 これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々歩き抜いた記録であり、また、遂に主役の座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の苦渋の記録でもある。読者諸賢におかれては、彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩味し、杏仁豆腐にの味にも似た人生の妙味を、心ゆくまで味わわれるのがよろしかろう。

 願わくば彼女せに声援を。

 

というような感じです。

 

これだけ読むと「えぇ? なんだか難しそう」と思われるかもしれませんが、実際にはそんなことは全然なく、結構スラスラっと読める文体なんですよ。

 

話の内容はざっくり言うと、主人公である「先輩」が、もうひとりの主人公である「黒髪の乙女」に恋をしてしまうが、なかなか積極的に動けない先輩は、彼女の外堀を埋めることに終始してしまい、いつまで経っても前進できない。

 

そんな中、大学クラブのOBが結婚することになり、内輪のお祝いが開かれることになる。彼女も出席すると知った先輩は、今日こそ二人の距離を縮めようとするが、夜の街で彼女を見失ってしまう……。

 

京都の先斗町を舞台にした、奇妙な人たちとの出会い「夜は短し歩けよ乙女」。

下鴨神社で行われる「古本市」で繰り広げられる過酷な古本争奪戦「深海魚たち」。

京都大学(っぽいの)の大学祭で、神出鬼没なコタツと寸劇を中心とした「御都合主義者かく語りき」。

京都を襲った謎の風邪を巡る「魔風邪恋風邪」。

 

本作はこの4章で構成されています。

 

そして、そのどれもが、先輩と黒髪の乙女を巡る恋物語。と言っても、途中までは先輩の一方的な恋物語なんですけどね(笑)。

 

出て来るキャラクターは、どれも個性の強い者ばかり。どちらかと言うと、主人公の先輩は普通の一般人も思えてくるくらいで、個性の強さだけで言えば完全に「主役の座を食われている」と言ってもいい程。

 

でも、そんな個性が強い人達の中でもしっかり先輩が描かれているのは、凄いなと思いました。

 

固そうな文章とは裏腹に、所々に笑える要素も混じっていて、普通に読んでいて吹き出してしまう小説って珍しいかもしれません。漫画だと多いんですけどね。あ、この前紹介した「かぐやさまは告らせたい」ですが、最新刊7巻が出ていますから、ぜひ読んでみて下さいね。こちらも、相当笑えますよ。

 

 

話を戻しましょう。

 

これは森見さんという作家さんの作風なのかもしれませんが、私的にはこのくどいようですっきりとした文体は嫌いじゃないです。

 

ストーリー的にやや奇抜な箇所もありますが、本書の中では「そういうこともあるのかもしれない」と思ってしまうのも、ある意味すごい所。

 

京都を舞台にしているだけあって、京都の地名がバンバン出てきます。

 

実は、私的にここだけはいただけないな、と思います。

 

小説なんかでは、よく東京や京都の地名が使われることが多く、もちろん知らなくても意味は通じるのですが、その地名をよく知っているからこそ、通じるニュアンスっていうのもあると思うんです。

 

私は幸い京都で十二年過ごしましたから、この本に出てくる地名はほとんど分かります。だから「(地名)から(路地名)を抜けると(地名)に出て」みたいな文章でも「あぁ、あそこか」と雰囲気を連想できるのですが、京都に詳しくない人にはそれは無理でしょう。

 

私の気にしすぎなのかもしれませんが、京都を舞台選んだ小説って、地名や施設名、名所など「知ってるよね?」って感じで書かれているような気がします。でも、それは京都だから許されてるところもあると思うんですよ。

 

他の地名だとこうはいかない。

 

そこに甘んじてはいけないと思ったりもするんですよね。まぁ、京都は日本でも有数の観光地であり、名所でもありますから、しょうがないのかもしれませんが。

 

さて、作品の内容と関係ない話になってしまいました。

 

とにかく、話は面白いです! 万が一読んでいない方がいらっしゃいましたら、ぜひ読むべきです。

 

独特の雰囲気に包まれて、読んだ後はきっと「あー、面白かった!」と思って、ちょっぴり幸せな気分になること間違い無しです。

 

 

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