[読んでレビュー]クラリネット症候群|乾くるみ・徳間文庫

2019年8月27日読んでレビュー

昨年11月を最後に、約1年ほど書籍のレビューである「読んでレビュー」を放置してしまっていました(相変わらずのネーミングセンスですみません)。

というのも、特に今年に入ってから本当に本が読めていないんですよね。「読んでレビュー」の記事によれば、2018年は16冊。それでも十分少ない気がしますが、今年は多分3冊くらい(漫画を除く)。ちょっといかんよなぁ、ということで、久々にレビュー記事を書いてみます。

今回レビューするのは乾くるみさん著の『クラリネット症候群』(徳間文庫)。読んだの自体は春先くらいだったので、やや内容を忘れてしまいかけていますが何とか思い出しながらレビューしていこうと思います。

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二編の中編小説

本書は『マリオネット症候群』と、本のタイトルにもなっている『クラリネット症候群』の二本立てになっています。文量的にはタイトルになっていない『マリオネット症候群』の方がやや長いものの、どちらも中編小説くらいのボリュームです。

乾さんといえば『イニシエーション・ラブ』が有名で(私は読んだことがないのですが)なんとなく「堅い小説を書かれる方」というイメージがありました。でも本作を読む限りではとても文章が読みやすく、恐ろしいほどの速さで読みすすめることができるんですよね。これは結構意外でした。

意外といえばもうひとつ。

私は本を読むときに、あまり作家さん個人のことを調べたりしないのですけど、今回たまたま上に書いた『イニシエーション・ラブ』が思い出せなくてググったところ、乾さんが男性であると知りました。

「くるみ」という語句から何となく女性をイメージしていたので、Googleさんが教えてくれたページを見てかなり驚きました。多分2019年でベスト3に入るくらいのびっくりです。

文章も女性的なイメージがあったんですよねぇ。女性的な文章、男性的な文章って難しいのですけれど……表現の柔らかさというか、セリフの自然さというか、そんなところに女性的なイメージがあったのかも。もしかしたら、勝手に「女性だろう」と思っていたのが、そう思わせていたのかもしれませんが。

『マリオネット症候群』

まず『マリオネット症候群』から。ネタバレはあまりしないように注意しますが、もしあったらごめんなさい。

主人公の御子柴里美が目を覚ますと、誰かに身体を乗っ取られた(?)シーンから始まります。意識はあるけど喋れないし身体が勝手に動く。今身体を動かしているのは、自分じゃなく彼女の知っているある人で、その理由は……。

というのが、主なストーリーです。

確か本屋さんで「二転三転するストーリー」みたいな書評が書かれていたのを見て買った覚えがあるのですが、確かにストーリーは二転三転どころか四転五転くらいしちゃいます。

途中で「あー、そういうことね」と大体何が起こっているのか分かるのですが、そこから更に転がっていく展開が凄い!

「あ、そうなるの?」と思ったら、次に「えっ……」という展開。特に中盤から後半にかけての展開はジェットコースターに乗っているかのように、ぐるぐる目まぐるしく変わっていき、どきどきが止まりません。

そしてラスト。

ラストシーンは何とも……。前々から言っているように、私はいわゆる「ハッピーエンド」が好きなんですが、これはどれに分類されるのでしょうか……。

いや、後味悪いというわけじゃないんです。「そういう終わり方がいいなぁ」という地点に着地はしてくれないのですが、何となく「ま、そりゃそうだよね」という感じ。

よく分からないという方は、ぜひお読みになって下さい。

『クラリネット症候群』

『マリオネット症候群』と名前は似ていますが、全く違う作品です。

どちらかというと推理小説に近い感じかも。

『マリオネット症候群』がスラスラ読める小説なのに対して、こちらは頭を使って読むような小説になっています。

ただ推理ものといっても普通のものではなくて「主人公の青年が、クラリネットを壊されたときからドレミファソラシの音が出なくなった」というちょっと変わった話です。

そう、あの有名な歌の歌詞ですね。

ドレミファソラシが聴こえない。それが物語のキーになっているのですけど、それの使い方が本当に面白い。ただちょっと分かりにくい部分もありますが、本格的推理ミステリ(?)に比べればまだマシな感じでもあります。

まとめ

個人的には『マリオネット症候群』の話が面白かった分、『クラリネット症候群』もそういう話になるのかと思って読んでいたので、ちょっと微妙でした。

ただラストシーン辺りは、ある意味「んなバカな!」という展開になるのですが、それを稚拙に感じさせないような文章というのは凄いなと素直に思いました。

小説を書いていると「ラストのネタバレシーン」の難しさを感じることがあるじゃないですか。あまりに稚拙なネタだと書いてて「どうなの、これ」と思ってしまいますし、多分読んでても同じ感想でしょう。

かといって、凄くマニアックにしてしまうと「何が何やら分からないよ」となりがちです。

その辺りを稚拙に見せず、かつスラッと書き上げているのは乾さんの力なのかもしれません。

ともあれ、どちらも読んで損はなしの名作だと思います。