満願【米澤穂信|新潮文庫】

2018年11月17日読んでレビュー

こんばんは、しろもじです。

読んだ本をざっくばらにレビューする「読んでレビュー」。

今回取り上げるのは米澤穂信さん著の『満願』です。

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六篇の短篇集

本作は『夜警』『死人宿』『柘榴』『万灯』『関守』『満願』の短篇集になります。

山本周五郎賞受賞、直木三十五賞候補になった作品ですね。

最近の米澤穂信さんの書籍らしく(?)全体的にダークな雰囲気が満載になっています。

 

過去に傷を持った警察官が、配属されてきた新人警官のある行動の謎を追う『夜警』。

突然疾走した彼女を追って来た宿で見つかった遺書を巡る物語『死人宿』。

離婚した両親への思いが錯綜する娘を描いた『柘榴』。

商社マンが海外で行った事件を巡るミステリ『万灯』。

田舎で起こる都市伝説を追うライターが遭遇した事件を描いた『関守』。

殺人事件で控訴を取り下げた妻の真意が凄い『満願』。

 

どれもこれもラストのどんでん返しに唸ってしまう作品です。

そしてどれもこれもが「すっきりしない」というのも米澤作品の特徴かもしれません。

これは決して悪い意味ではなく、読み終わった後にモヤモヤっとしたものが残るというか、喉の奥に骨が刺さったような感じというか……。

オチ自体は「あぁ!」となるのですが、かと言って「よかったよかった」とはならない感じなんですよね。

 

個人的イチオシは『関守』です。

これは本当に怖い。

ラスト数ページが凄いんですよ。

ちょうど寝る前に読んでいたんですけど、おかげで寝られなくなりました(笑)。

 

一方で『柘榴』は本当に胸糞悪い話です(笑)。

なんと言うか誰も報われない系の話。

登場人物も読者も報われない。

ミステリ的な要素は少ないのですが、オチはちゃんとある。

これどうやって思いついたんだろうなぁ、と感心を通り越して呆れてしまうほどです。

 

本のタイトルにもなっている『満願』は……これ年齢層を選びそうな作品です。

若い方には分からないんじゃないかな、と勝手に危惧してしまいます。

昭和な方なら何となく理解できそうですが、平成生まれの方には難しいかもしれません。

 

400ページに6篇ですから、1話辺り約70ページ弱。

おおよそですが3万字から4万字辺りだと思われます。

この短さで、特にミステリという作品をキチンと書き上げるのは、長編を書くよりも難しいことではないかと思います。

それ故に、いかに無駄を削ぎ落としながらも描写不足にならないように仕上げている辺りに、米澤穂信さんの凄さが見え隠れしているのだと思います。

昔の米澤作品がもう一度読みたい

そんな感じで読後はいい意味で「うーん……」となってしまう本作ですが、私としては昔の米澤穂信作品をもう一度読みたかったりします。

『古典部』シリーズや『小市民』シリーズですね。

『小市民』シリーズは全て読破しちゃったのですが、『古典部』の方は2つくらい残してありますので、近いうちに読もうかなと思っております。

 

両シリーズの続編でもいいですし、新シリーズでもいいのですが、日常系のミステリって米澤穂信さんの真骨頂だと思うんですよね。

『インシテミル』辺りからでしょうか? ややダーク系というかリアル系に軸足が移っていって少し残念でもあるのですが、とは言えこれはこれで面白いから困ってしまいます(笑)。

そう考えると、ライト系もダーク系も書けるというのは凄いことですよね。