有頂天家族 二代目の帰朝【森見登美彦|幻冬舎文庫】

読んでレビュー

読んだ本を思いのままにレビューする「読んでレビュー」。

今回取り上げるのは「読んでレビュー」初の続編もの、森見登美彦氏著『有頂天家族 二代目の帰朝』です。

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やっぱり京都だ!?

森見氏の著書を取り上げるのは『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』『ペンギン・ハイウェイ』に続いての4つ目になります。

『ペンギン・ハイウェイ』では舞台が異なりましたが(奈良の模様)、今回の作品はちゃんと京都が舞台です。

やはり森見作品と言えば、京都!

しかし、よくよく考えてみると京都であるという舞台が活きているのは「おどろおどろしい雰囲気作り」くらいなんですよね。

 

でも「京都だっ!」と喜んでしまうのは、それだけ創作において舞台が大切な役割を果たしているからと言えるのかもしれません。

中でも京都は「行ったことがない人が少ない」という特徴があるのでしょう。

京都に住んでいる人、過去に京都に住んだことがある人、京都に旅行に行ったことがある人などを加えると、相当数の人が京都に触れたことがあると思うんですよね。

 

中でも旅行で行ったことがある、という人が一番多いと推測できます。

京都って不思議な街で、本当に旅行にはピッタリなんですよね。街の風景も美しいし、歴史的な建築物も多いし。

どこか幻想的で「いいなぁ」という気持ちにさせてくれます。

 

でも実際に住んでみると、全然そんなことはないんですよね。

田舎ではないけれど、それほど発展している街でもない。

碁盤目状の道は分かりやすいけど狭い道も多く、一方通行も多かったりして暮らしにくいし。

神社仏閣などの歴史的な施設も、観光客が多いので地元民はそれほど行きませんし。

 

ただ「行ったことがあるよ」という方にとっては、京都という舞台が幻想的で素敵な街としてのイメージとなって、作品の雰囲気をもり立ててくれるのではないのかな、と思ったりします。

二代目とは?

ちょっと京都語りが過ぎました(笑)。

本作のサブタイトルになっている「二代目の帰朝」。

いつものように、事前情報なしで読んだので、始めは「二代目って何の二代目?」と首をひねっておりました。

ブックカバー裏にも書かれている情報なので、ネタバレにはならないと思いますから書きますけど、これは天狗の赤玉先生の二代目になります。

つまり新キャラです。

 

サブタイトルにもなっているくらいですから、この二代目が準主役(主役は矢三郎なので)だと思っていたのですが……。

もちろん、本作のストーリーの中心に二代目がいる、もしくはストーリーのきっかけになったのが二代目であることには間違いありません。

でもねぇ。

 

なんかキャラが薄いんですよね。

先程も書きましたけど、主役はやはり狸の矢三郎なので、そこはしょうがないかなとも思うんですけど、それしても薄い。

なんでかって考えてみると、ただ単に他のキャラが濃すぎるからなんですよね(笑)。

 

他にも何人か新キャラがいるんですが、それも含めてみんな濃い濃い。

よくもまぁ、こんなに特徴的なキャラクターを作れるものだな、と感心するくらい濃いメンバーばかりです。

二代目も特徴的ではあるんですけど、どちらかというとスマートすぎるんでしょうね。

 

もちろん、悩みや挫折を抱えている人間(?)なんですけど、凄い強いし言動も穏やかだし。

良い人と言い切れない部分はありますが、それにしてもトゲが少ないので刺さってこない。

 

ただ、ふと考えたんですけど、薄いから良くないのかと言えばそうとも言えない。

小説を書いている人にとって、キャラクターに特徴を持たせて「刺さるキャラにしたい」という思いは誰にでもあると思います。

良かれ悪かれ、グッと惹かれるキャラクターにしたい。

透明人間のような、空気のような。ストーリーを進展させるためだけに設置するようなキャラクターは作りたいくない。

そう思う人がほとんどだと思います。

 

そう考えると、このようなキャラクターを準主役に持ってきて、それでいて違和感なく仕上げるというのは逆に手法としては難しいのではないだろうか、と勘ぐったりします。

自分だったら、これだけ力を持った(強い)キャラクターを置いてしまうと、ついつい「無双」しちゃいそうです(笑)。

その辺りも森見作品の面白い所ですよね。

一番すごいと思ったのが

ストーリーは掛け値なしに面白いです。

『有頂天家族』を面白い、森見作品が好きだと言う人は誰でも面白いと思うはずです。

「なんでこんなにおもしろいのかな?」と考えてみると、先程書いたようなキャラクターの魅力もあるのは確かですが、やはり「森見文体」とも言えるその文章にあるのだと私は感じました。

 

少し回りくどいような言い回しなんだけど、決して詰まることなくスラスラ読めてしまう。

そこが森見作品の特徴のひとつではないかと。

この本って、530ページ位あるんですよね。

 

本屋さんで手に取ると「分厚いな」と思えるほどの文量です。

それなのに、サラサラっと読めてしまう。あっという間です。

小説でもアニメでも映画でも「まだ終わらないのか」と思う作品もあれば「あれ、もう終わった?」と思うものもあります。

 

再び自分で小説を書くときの話をしますと、どうしても「展開を急がないと飽きられるんじゃないか」という怖さを感じることがあります。

だらだら物語が進んでいないと、読者が離れてしまうのではないか? 

特に投稿サイトなどに投稿している場合だと、1エピソード≒3,000〜5,000字で起承転結をしないといけないんじゃないかと思ってしまうほど、展開を急いでしまうことがあります(個人的な話なので、全ての人に該当するかは分かりません)。

 

でも、本作ってストーリーを改めて見直してみると、凄いシンプルなんですよね。

ネタバレになるので詳しくは書けませんが、そこまで複雑に入り組んだ話でもないし、展開だってそれほど早くない。

でも、飽きることなくページをめくっていける。「もう1ページだけ」が続く。

 

小説というのは色々な作品、文体、構成があってしかるべきです。

中には前述したような、展開がバタンバタンと変わっていくというのが売りの作品もあるでしょう。

でも、本作のように「じっくりと読ませる」という作品の技法(と言って良いのか分かりませんが)を会得できれば、ストーリー展開はともかく、読み続けてくれる小説を作れるのではないだろうか、と思ったりもします。

 

 

今回は少し「読み手の感想」よりも「書き手の感想」になってしまいました。

不思議なんですよね、森見作品って。

観光客が京都に感じる「雰囲気」に似ているような気がします。

森見氏やそれができる人にとっては「あれ、そう?」と思ってしまうようなことかもしれません(憶測なので違うかもしれません)。

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今日も最後までお読み頂きありがとうございました!

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