カクヨムの「新たな取り組み=Web小説家の収益化」は、創作者に何をもたらすのか?

小説LABOカクヨム,小説投稿サイト

カクヨムが投稿作品の収益化などを計画しているということは、先日記事にしましたよね。

同記事内で「より自作を読んでもらうための競争が苛烈になる可能性がある」と指摘しました。

これは問題点であると同時に「小説家が自分で宣伝を行うこと」により、カクヨムの今以上の活性化に繋がる可能性もあるので、一概に悪いとは言い切れない可能性があります。

「読み合い」「星などの投合い」については、まだまだ私自身が消化不足な部分もあるので、今回はそっと隣に置いておきます。

本記事では「収益化が小説家に与える影響」について考えてみたいと思います。

※いつも通りここでの小説家とは「小説を書く人全般」を指し示しています。

スポンサーリンク

書籍が全てではなくなる可能性がある

前回の記事でも触れましたが、現状はカクヨムに小説を投稿しても1円にもなりません。

カクヨムが今回提示している方法であれば、小説家にとって書籍以外の収益化の道が開けてきます。

前回の記事ではPVあたりの収益予想(広告)をかなり甘めに見積もっていましたが、0.1円/PV(Youtubeで一般的と言われている単価)として考えると

1,000PV=100円
10,000PV=1,000円
100,000PV=10,000円

となります。

とまぁ、具体的なお金の話は今ここでやっても妄想の範囲を抜け出せませんのでこのくらいにしておきましょう。

ただ、先程書いたように「書籍を出すことが全てではなくなる」という可能性は、当然増えてくることになります。

「書籍を出したからと言って、一生安泰とはならない」というのは今まで何度か書いてきたことですし、あちらこちらでも語られている話でもありますので、どこかで聞いたことくらいはあるかもしれません。

また書籍を出すハードルも、一昔前に比べると随分低くなったのではないかと思いますが、それでも「誰でもできる」というわけでもないのも確かです。

カクヨムの施策は、この「0か100か」の中間を生むものになるのでしょう。

問題はこの「100」がどれを指し示すのか、というところではないでしょうか。

つまり「書籍化」を100と捉えるのか「一生安泰というくらい稼げている」を指すのか?

前者で捉えれば「広告収入でお小遣い程度稼げて、ある程度人気が出たところで書籍化した」ところがゴールになります。

その後はその作品次第になりますので、再び0に戻る可能性も無きにしもあらずというところでしょうか。

後者の場合はどうでしょう?

私は「もしかすると書籍化しないが、そこそこ稼げる作品」というのが出てくるのではないかと思っています。

そこそこ稼げる状態というのは、当然かなりの人気を博している状態ですので、当然出版社からお声が掛かることになると思われます。

しかしそこで作者が「いや、書籍化は結構です」という場合もあるかもしれません。

専業作家であれば書籍として売り出した方がより収入として安定するわけですが(というより書籍として出さないと生活できない)収入源を確保している兼業作家にとっては「手直しする手間」を考えれば、現状でも十分という方は出てくるのではないでしょうか。

そのようなことから「書籍が全てではなくなる」という可能性があることが分かります。

短編が増える? 長編が増える?

この前のカクヨム3周年記念選手権のような、数千字単位の掌編は(収益化)において難しくなるかもしれません。

できれば複数話見てもらった方が収益になるので、連載ものにした方がトータルのPVが増える可能性は高いように思われます。

ただ一方で「長期連載になると新規読者が少なくなる」という問題もあります。

『ワンピース』は間違いなく面白い作品ですが、既に90巻以上刊行されているものを一から読む、というのは一般的な社会人にとっては難しいでしょう(学生さんでも忙しい方は無理かもしれません)。

よって週刊漫画のように「長期連載するものはベースとしての読者が多いもの」に限られていきそうです。

効率的なことだけを考えると「1話、もしくは数話単位で完結しつつも、全体としてシリーズ化しているもの」というのが良さそうに思われます。

ジャンプで言うと『こち亀』的なヤツですね。

ただまぁ、これはあくまでも収益を考えたときの話であり、それを無視すればどんな形式もありなんですけどね。

収益を考えると短編はキツそうだ、というのはあるのかなぁという感じです。

書き手にとってはアンダーマイニング効果を生む結果となる恐れ

懸念されることはいくつかあるのですが「書き手の読み合い問題」については前回も書きましたし、他の記事でも何度か書いたことなので割愛して他のことを考えてみましょう。

個人的にもっとも「どうなるのかな?」と興味があるのが、いわゆる「アンダーマイニング効果」です。

詳しくはググって調べて欲しいのですが簡単に言うと「好んで無報酬にてやっていたことに利益を与えると、それが失われてしまったときにやる気を失ってしまう現象」のことです。

これにも2つほどパターンがありそうで「得られていた広告収入が激減しやる気を失う」のと「(始める前に)思っていたのよりも広告収入が得られなかった」というものです。

前者のパターンは小説という媒体を考慮するとあまり考えられないものですが、後者は結構ありそう(それをアンダーマイニング効果と呼んでいいのか分かりませんが)。

「これで副収入が得られそうだ!」と期待しすぎるのは良くないのかもしれません。

ただ報酬というのは何も金銭的なことだけを指し示すわけではなく「レビュー」「感想」「いいね」「PV」なども含まれますので、それは現在でも注意しないといけないところではあると思います。

小説投稿サイトの乱立から一歩抜け出す施策?

随分否定的なことを書いてきましたが、私自身は前にも書いたようにカクヨムのこの施策は良いものだと思っています。

それは「小説を書いてお小遣いを貰えるから」ではなく、他の小説投稿サイトとの差別化に繋がる可能性があるからです。

既に同様のことをしている投稿サイトはありますが、これを大手出版社であるKADOKAWAがやるということに意義があると思います。

これだけ小説投稿サイトが乱立してくると、例えKADOKAWAであっても独自のカラーを出していかなくては生き残れる保証はありません。

講談社の「ノベルデイズ」「セルバンテス」、スターツ出版の「ノベマ!」「野いちご」「Berry’s Cafe」などの出版社直轄のサイト、「小説家になろう」などの独立系サイトなど強豪が多くいる中、更に多くのサイトが産声を上げており、これからも出版社の投稿サイトは増えていくでしょう。

その中で「出版はできなくても多少の見返りはある」というのは、兼業作家にとっては魅力のある選択肢になると思われます。

書籍はどうなる?

上で「書籍が全てではなくなる可能性がある」と書きました。

紙書籍の苦戦が度々ニュースになっていますが、恐らく私たちが生きている間にそれがなくなるということはないでしょう。

このままの状態が続いたとして、紙書籍が完全になくなる(限りなく0に近づく)のは世の中が「デジタルテキストジェネレーション」で占められたころではないでしょうか。

これは「小さいころから紙書籍はほとんど読まず、デジタルだけで文字に触れてきた世代」を指し示していますが、現時点でも学校の教科書はまだ紙ですし家の中にも本や雑誌、新聞などが残っている家は多いわけです。

ですので「紙書籍が何も手を打たない状態」であっても、しばらくはなくなるということはないでしょう。

受け身ではなく積極的に紙書籍を展開していく方法ですが、端的に言って私は「物理的なものはコレクターズアイテム化していく」と思っています。

すでにアニメなどはほぼ完全にそうなっていますが「デジタルはメインコンテンツ」を提供し「物理的なものはサブコンテンツ」を提供するということですね。

つまり「本編はKindleでもWebでも読めるけど、サブストーリー、アナザーストーリー、設定集、著者寄せ書き、絵師による追加の書き下ろしなどは、書籍を買わないと読めないよ」という感じです。

当然分母は少なくなりますので単価は上がりますが、ファンであれば単価は関係ないでしょう。

「欲しいものは買う」のがファンですから。

そのうち「1冊買うだけでは全てを集められない」という状況も生まれてくるかもしれません(って、今でもありますか。書店限定の特典とか)。

先程しれっと「単価が上がる」と書きましたけれど、価格を上げるのは出版社にとってはもっとも簡単に利益を上げる手段でもあったりします。

例えば1,000円の本を売ってたとして、出版社の利益が500円だったとしましょう。

価格を1.5倍の1,500円にすれば、利益は2倍の1,000円になります(価格を変えることで経費は増えないため)。

逆に言えば1,000円の本を1万冊売って600万の利益だったならば、本を2,000円にすれば6,000冊売れれば同じ利益を確保できます。

先程言ったサブコンテンツには当然お金がかかりますので、こんな単純計算ではダメでしょうけど、いずれにしても「単価を上げる」という方法は取らざるを得ないようになるのは確実なような気がします。

買う側のファンとしては、財布に厳しい時代になりそうです……。

まとめ

カクヨムでこの施策が始まったとしても、ほぼ間違いなく「これだけで食っていける」という状況にはならないでしょう。

ただ前述したように「兼業であれば書籍化を断るという選択肢も出てきた」というのは、結構革新的かもしれませんね。

また今回は触れませんでしたが、投げ銭的なシステムもカクヨムは検討していると言っています。

こちらは「Webサイトに支払手段(≒クレジットカード)を登録しないといけない」というハードルがあるため、そこまでの期待は持てないのかもしれません。

BOOK☆WALKERとの連携が上手くいけば、そのアカウントの支払い情報を使って……ということも考えれられますが、どうなるのでしょう?

いっそAmazon PayでもPay Payでも何ペイでもいいのですが、他者の支払いサービスを導入するというのも手かも……とは思いますが、恐らく手数料的なことを考えると少し難しいでしょうか。

いずれにしても「今秋のリリースを目指している」とのことですので、あと半年程度は待たないといけないわけで、それまでは小説を頑張って書き進めるか、こうして妄想を垂れ流しておくくらいしかできないわけですが(笑)。